【AIとの付き合い方】ハルシネーションに振り回されない4つのコツ
この記事でわかること
- 生成AIがエクセルとは比べものにならない速さで広がった理由
- 「ハルシネーション」とは何か。AIがもっともらしい間違いをする仕組み
- 実際に起きた、AIの回答を鵜呑みにしたことによるトラブル
- AIを「機械」ではなく「真面目な相棒」として扱う、付き合い方のコツ
「AIとの付き合い方、これで合っているのかな?」
毎日のようにAIを使っていると、ふとそう感じることはありませんか。
文章づくりも、調べものも、アイデア出しも。いまやAIは仕事に欠かせない存在になりつつあります。私自身も、AIのことを「非常に優秀な部下」、いや、もう「右腕」と呼んでいいくらい信頼しています。
ただ、信頼しているからこそ落とし穴がある。今回は、私の実体験と公的なデータをもとに、これからのAIとの付き合い方について考えてみたいと思います。
1. エクセルを覚えたあの頃と、いまのAIとの付き合い方は似ている
パソコン教室に通ってまで覚えた時代
AIの話をするとき、私はよく「エクセルが出てきたころに似ていますね」と言います。
覚えている方も多いのではないでしょうか。仕事で使うために、わざわざパソコン教室に通って、関数や表の作り方を身につけたあの時代です。
ただ、当時は広がるまでにかなりの時間がかかりました。内閣府「消費動向調査」によると、パソコンの世帯普及率は、調査が始まった1987年の時点で11.7%。1990年代前半までは10%台にとどまり、半数を超えたのは2001年(50.1%)のことです。パソコンそのものが一般家庭の半数に行き渡るまで、実に14年かかったわけです。

AIは「年単位」ではなく「月単位」で広がった
AIは違いました。
2022年11月に公開されたChatGPTは、スイスの金融大手UBS(Union Bank of Switzerland)の分析によると、公開からわずか2か月で月間利用者1億人を突破したと推定されています。当時「史上最も速く普及したアプリ」と報じられました。
職場への広がりも急速です。
総務省「令和7年版 情報通信白書」によると、日本の個人の生成AI利用経験率は26.7%。前年の9.1%から約3倍に増えています(図表Ⅰ-1-2-8 生成AIサービス利用経験(年代別、日本))。

帝国データバンク「生成AIに関する企業の動向調査(2026年3月)」では、生成AIを活用している企業は34.5%。2024年の同社調査(17.3%)から、2年でほぼ倍になりました。
ChatGPTの公開から、まだ4年足らず。エクセルとは比べものにならないスピードです。
なぜAIはこれほど早く広がったのか
理由はいくつか考えられます。
- 話しかけるだけで使える: 関数やマクロを覚える必要がなく、普段の言葉で頼めます。
- 日本語にしっかり対応している: 英語が苦手でも、最初からストレスなく使えます。
- 考えたような答えを返してくれる: 質問の文脈を読み取り、筋道立てて回答してくれます。
要するに、「使い方を習わなくても、とりあえず使える」。これが、パソコン教室が必要だったエクセルとの決定的な違いです。
利用が広がるほど開発競争も激しくなり、AIの性能は上がり続けています。AIを組み込んだアプリやサービスも次々に登場していて、今や「どのAIを使えばいいのか」迷ってしまうほどです。
2. ハルシネーションとは?「もっともらしい間違い」の正体
ここで避けて通れないのがハルシネーションです。
ハルシネーションとは、AIが事実とは違う内容を、いかにも本当らしく答えてしまう現象のこと。もともとは「幻覚」を意味する言葉です。存在しない本の名前、実在しない統計、間違った日付などを、自信満々に示してくることがあります。
実際に起きた「AIを鵜呑みにした」事件
有名な例が、2023年に米国で起きた裁判(Mata v. Avianca事件)です。
ある弁護士がChatGPTを使って書面を作成し、裁判所に提出しました。ところが、そこに引用された6件の判例はすべて実在しないものでした。弁護士らは裁判所から5,000ドルの制裁金を科され、この事件は「AIの回答を確認せずに使う危うさ」の象徴として、今も世界中で引き合いに出されています。
法律のプロでさえ、見抜けなかった。それほど「もっともらしい」のです。
なぜハルシネーションは起きるのか
「なぜAIは堂々と嘘をつくのか?」
その最大の理由は、AIの訓練と評価の仕組みそのものにあります。
ChatGPTの開発元であるOpenAIが2025年9月に発表した論文「Why Language Models Hallucinate」の中で、衝撃的な指摘がなされています。現在のAIは「わかりません」と素直に答えるよりも、推測や嘘であっても何かしら答えた方が高く評価される仕組みで学習されているというのです。
いわばAIは、「『わかりません』と言うと怒られるから、知らん顔をして知っているフリをする真面目な生徒」のような性質を根本的に抱えているわけです。
これに加えて、実務では以下のような原因が重なります。
- こちらの意図が、違うニュアンスで伝わっている
- AIが参照したWeb上の情報そのものが不正確
- 情報は正しくても、AIの文脈理解が追いついていない
開発元自身が認めている通り、AIは分からなくても「それらしい答え」を出そうとする。この前提を知っておく必要があります。
3. 優秀な右腕だからこそ、確認がゆるんでしまう
正直に告白します。
AIに深く触れている私ですら、AIの回答を一瞬そのまま信じ込んでしまい、冷や汗をかいた経験があります。
先日もこんなことがありました。
コラム執筆のため、AIに業界の最新統計データを出してもらったときのことです。「厚生労働省の統計によると〇〇倍」と、出典やコンテキストまで添えられ、あまりにも綺麗にまとめられた回答が返ってきました。
文章があまりに自然で説得力があったため、一瞬「よし、このまま提案資料に使おう」と貼り付けそうになったのです。
しかし直前で踏みとどまり、念のため厚生労働省の元資料を開いて自分の目で数値を確認してみました。すると、数字が全く合わない。AIに「この数字の一次ソースはどこ?」と追及すると、「申し訳ありません、該当する一次ソースは確認できませんでした」と返してきたのです。
危うく、嘘の統計を社外に出してしまうところでした。
こちらが欲しがっている方向に沿って完璧な文章を組み立ててくれるからこそ、人間側の確認が甘くなる。「もっともらしい回答」こそが一番危険なのだと、身をもって痛感したヒヤリハットでした。
帝国データバンクの同調査でも、生成AIを使う上での懸念の第1位は「情報の正確性」(50.4%)です。この恐怖を感じているのは、決して私だけではないようです。
4. AIとの付き合い方のコツは「機械」ではなく「人」として接すること
では、どう付き合えばいいのでしょうか。
AIはパソコンやスマホの中で動くので、つい電卓のような「機械」と同じ感覚で接してしまいがちです。でも、機械は同じ操作をすれば毎回同じ正しい結果を返します。
AIは違います。むしろ人間に近い。いつもはしっかり者なのに、ときどき勘違いもするし、調子に乗って知ったかぶりもする。
だからこそ、AIとの付き合い方は「優秀だけど、ときどき知ったかぶりをする真面目な相棒」として接するのが一番うまくいきます。具体的には次の4つです。
コツ① 任せる。でも、最後のチェックは自分でする
部下に仕事を頼んだとき、上がってきた資料を一切確認せずにそのまま取引先へ提出する上司はいませんよね。
AIも同じです。下書きやアイデア出し、構造化はどんどん任せていい。ただし、世に出す前の最終確認は人間の仕事。ここだけは絶対に譲らないことです。
コツ② 数字・固有名詞・出典は、元の資料で確かめる
ハルシネーションが特に起きやすいのが、統計数値、人名・社名、法令や制度の名称、引用元URLです。
ここは必ず、官公庁や公式サイトなどの元の資料(一次ソース)を自分の目で確認しましょう。数字がひとつ違うだけで、会社の信頼性は一気に崩れ去ります。
コツ③ 「根拠」を聞き、人間が直接ググって確かめる
AIの回答に少しでも疑問を感じたら、「その根拠は?」「根拠となるキーワードは?」と聞き返してみてください。
ただし、ここで一つ大きな注意点があります。ハルシネーションを起こしているAIに「出典のURLを出して」と聞くと、さらに実在しない嘘のURLや架空の論文名を捏造して返してくる(二重ハルシネーション)ことがあります。
AIに根拠の「キーワード」や「元の制度名」を聞き出したら、最後は必ず人間がGoogleなどの検索エンジンを使い、自分の手で一次情報にたどり着いて確認してください。
コツ④ 頼み方を工夫する
頼み方が雑だと、AIの勘違い(ハルシネーション)を引き起こしやすくなります。「目的」「前提条件」「出力フォーマット」を具体的に伝えるだけで、回答のズレは激減します。
頼み方のコツは、以前のコラムで詳しくまとめています。
▶ 関連記事:【入力3分で成果が変わる】生成AIを「優秀な右腕」に変える指示出し3ステップ
5. よくある質問(FAQ)
Q1. ハルシネーションは、AIの性能が上がればなくなりますか?
少しずつ減っていくとは思いますが、ゼロにはなりにくいと考えられています。
OpenAIの論文でも指摘されている通り、ハルシネーションはAIの学習構造に由来する確率的な性質です。性能が上がっても、「最後は人間が確認する」という前提ルールが変わることはありません。
Q2. 全部を確認していたら、AIを使う意味がなくなりませんか?
すべてを疑う必要はありません。メリハリが大切です。
文章の表現を整えたり、ブレインストーミングでアイデアを出したりする段階では、多少のズレは問題になりません。確認に全力を注ぐべきは、数字・固有名詞・法令・出典など「間違うと企業の信用に関わる部分」だけです。ここに絞れば、確認の手間は最小限で済みます。
Q3. 社内でAIを使うとき、何から決めればいいですか?
大げさな規定を作る前に、まずは次の2つの具体アクションから始めてみてください。
- 「入力NG・出力チェックNG業務」の明確化: 個人情報や機密情報の入力禁止、AIが作成した文章の無点検での社外送信禁止を周知する。
- 簡易チェックシートの導入: 資料を提出する前に「数字・固有名詞・出典を一次ソースで確認したか」をチェックする1枚の確認表をつくる。
これだけでも、社内のAIトラブルや情報漏洩のリスクは大幅に激減します。
まとめ:AIは「真面目な相棒」。最後の確認は人の仕事
- AIはエクセルとは比べものにならない速さで職場に広がった
- 「わかりません」と言えないAIの性質上、「ハルシネーション(もっともらしい嘘)」は必ず起きる
- AIは機械ではなく、ときどき知ったかぶりをする「人に近い存在」として扱う
- 数字・固有名詞・出典は、AIに根拠を聞いた上で必ず人間が直接検索して確認する
かつてパソコン教室に通って表計算ソフトを覚えたように、今の私たちにはAIとの正しい付き合い方を身につけることが求められています。
覚えるべきなのは、複雑な操作方法ではありません。信頼しつつ、自分の目で確かめる。頼りになる相棒だからこそ、最後のひと手間を惜しまないこと。それが、これからの時代に求められるAI活用術です。
AI活用や社内ルールづくりについて、お気軽にご相談ください
「社内でAIを使い始めたけれど、安全な活用ルール(ガイドライン)がない」「社員がハルシネーションに気づかず使っていないか不安」「IT導入補助金を活用して、安全にAIツールや業務システムを導入したい」。
そんなお悩みをお持ちでしたら、株式会社誠までお気軽にお声がけください。中小企業の現場に合わせた「AI活用ガイドラインの策定」から「IT導入補助金を活用したツール導入サポート」まで、貴社のフェーズに合わせて伴走いたします。
著者プロフィール
田上 寛(たのうえ ひろし)/株式会社誠 代表取締役
名古屋を拠点に、中小企業のIT活用・DX推進を支援。HP制作・SEO対策・集客改善・採用支援から、クラウド移行・業務自動化・セキュリティ対策まで幅広く対応する。業種を問わず経営者と並走するスタイルで、現場目線の課題解決にあたっている。