情報の入手がマスメディア中心だった以前とは異なり、ネットを中心に膨大なコンテンツに囲まれる現代において、「タイパ」が注目されるようになっています。
「タイパ」とは「タイムパフォーマンス」の略で、いわゆるZ世代を中心に普及してきたとされ、2022年には流行語にも挙げられました。
デジタルネイティブと呼ばれる世代
「デジタルネイティブ」と呼ばれるZ世代は、生まれたときから身の回りにIT、デジタル機器があり、成長の過程でそれらに慣れ親しんできた世代で、多くの情報を効率的に収集する必要のある日々において、内容を深く理解するよりも全体的な流れを把握し、話題に乗り遅れないようにしたいという要望から「タイパ」が生まれました。
「かける時間を短く」という要望は倍速再生だけでなく、コンテンツそのものの短時間化も促しました。動画投稿サイトでは数秒~数分程度の短時間動画が流行し、TikTokやYoutubeショート動画などが非常ににぎわっており、そのショート動画の主役は、主にZ世代の若者たちです。
タイパはすでに全世代共通項?!
このようにZ世代から流行し始めた「タイパ」ですが、時間に追われる現代において、多くの世代に受け入れられようとしています。三菱UFJ信託銀行と株式会社ヴァリューズの共同研究調査によると、「あなたが普段行っている『タイパ』関連の行動は何か」という問いに対して「動画の倍速再生」が全体として最も多く、20代男性では56.5%、女性で55.7%と過半数を超えています。また、50代男性でも46.9%、女性でも45.3%と、世代を問わず広がっていることも分かります。
また、セイコーグループが生活者に時間についての意識や実態を探るために毎年実施している15~60代の男女1,200人へのインターネット調査(セイコー時間白書2022)「コロナ禍以降、『時間の使い方で困っていること』」によれば、「時間が足りない」と感じている人が1年で37.8%(2021年)から48.1%(2022年)と10%以上増えていることから、やはり全世代にわたる共通項であることが分かります。
さまざまな「タイパ」
「タイパ」が全世代的に普及したのは、以前からあった「時短」という概念にシナジーがあったからだといわれています。そして、ファストフードやファストファッションなど、世の中にはタイパ重視の業態はすでに数多く存在しており、最近では今まで以上に、タイパ消費を意識した「時間効率」を深堀した消費やサービス、業態開発が激増していることに気が付きます。50を超える診断項目に応えることでコーディネートのプロが、300ブランド35万着以上の洋服から自分に似合うコーデを選び、自宅まで送ってくれるサブスクサービスairCloset(https://www.air-closet.com/)もその一つです。まさに、忙しくてコーディネートを考える時間がない女性などの時間効率を深堀した新業態といえるでしょう。
また、実際、小売業や家事代行サービス、フィットネスなどのサービス業にまでタイパ消費の考え方が広がっています。例えば、商品開発でもタイパが重視されており、冷凍食品や「Yakult1000」の爆発的ヒットや時短につながる家電製品など、食品関係のタイパ商品も増えています。
ビジネスでも「タイパ」が加速する!
1957年、マルコム・P・マクネアが発表した「小売の輪理論(ホイール理論)」によれば、流通、小売業は「良い品を安く」というマスマーケティングの中で経費削減による合理化・省力化を進め、粗利率を下げることで価格訴求を原動力に新しい業態と経営システムを発明しながら発展してきたのです。下図からも見て取れるように、1830年ころに登場した専門店(スペシャリティストアと呼ばれ、日本のそれとはやや異なる)以後、アウトレットストアに至るまでの業態は、常により低粗利で広域商圏を対象にしながら成長を続けてきたといってよいでしょう。しかし、これに、コンビニエンスストアやオンラインストアを加えると、「新業態は常に消費者のタイパ重視の志向に合わせて生まれてきている」という別の視点が現れるのです。
そして、このコンビニエンスストアとオンラインストアという業態は、これまでのように粗利を落として低価格で販売するというやり方を覆し、省力化しつつも高い粗利を上げて、効率的な商売をすることを可能にしました。つまり、タイパ重視の消費者に、より便利な買い物をしてもらおうと試行錯誤した結果、利益率が高く、タイパの良い新業態が開発され、結果的に現代のネット全盛時代をもたらしたのです。リアルからオンラインへの移行は、ある意味、タイパのもたらした成果物といってもいいのかもしれません。
※1 GMS・・・「General Merchandise Store(ゼネラルマーチャンダイズストア)」を省略した言葉で、日本では「総合スーパー」と訳されている。 例:イオンリテール、イトーヨーカドーなど
※2 オフプライスショップ・・・ファッションブランドの余剰在庫やシーズンが過ぎた商品を、さまざまなメーカーからセレクトし、一つの店舗で販売するビジネススタイル。多種多様な有名ブランドアイテムが並ぶ点でアウトレットとは異なるとされる。
※3 カテゴリーキラー・・・ある特定の商品分野に的をしぼり、豊富な品揃えと低価格での販売を行う大型量販店で、特定の「商品分野」に限定し、それを集中的に安く売ることにより、他企業に「決定的な打撃」を与えるという意味で、この名が付いています。 例:トイザらス、青山商事など
※4 メンバーシップホールセールクラブ・・・「Membership Wholesale Club」とは、卸価格での小売販売を目指して低価格で商品を提供する会員制卸売を行う業態。 例:コストコ
「まとめ」
若者発信の「タイパ」が中高年にも広がりを見せ、「タイパ」が発想の基となってビジネスにも取り入れられつつある背景から、今後もこの流れは続いていくでしょう。そんな中、マーケティングの基本でもあるセグメンテーションを行い、適した市場を見つけるためには、その市場にいる生活者(消費者)のニーズや価値観などを基に分析する必要があります。
つまり、「タイパ」を含め、生活者(消費者)のニーズや価値観などを常に注視し、微細な変化を肌で感じることで、成功への道筋を開いていくことができるのです。